ついについに、村上春樹の「世界の終わりとハードボイルドワンダーランド」を読み終わった。
感想はかなり面白かった。
僕は結構、村上春樹が大好きで作品を読んでいるんだけど、この本は買ってから読み終わるのに2、3年かかってしまったかな。
その間に何度もトライをしたけどあまり面白いと思えず最近何度目かのトライをしてついに最後のページまで進めることができた。
僕の最初の春樹作品との出会いは「ノルウェイの森」だった。
これを読んで僕は小説というものを根底からひっくり返されるような衝撃と言葉に表すのが難しい感動や感情を感じた。
そこから手当たりしだい村上春樹を読もうと思ったんだけど、違った。
僕はまた「ノルウェイの森」のような面白さや感覚を味わいたかったのだけれど、一般には村上春樹の作品はシュールレアリズムというジャンルと言われていてそれが彼の作品の個性であり持ち味だということだった。
当時の僕にはまだシュールレアリズムを理解するのが困難だった。
今振り返ってみると「ノルウェイの森」というのは村上春樹の小説の中でも特異な位置付けであると思う。
それは日本での発行部数も群を抜いているし何より物語は一貫してレアリズムをもって書かれているからだ。いきなり変な世界に迷い込んだり、変な動物が出てきたりもしない。あくまで現実の世界で登場人物たちによってドラマが繰り広げられる。
今思うのは作家としての村上春樹を知ろうとして作品を読み始めるのに最初の一冊に「ノルウェイの森」はあまりに村上春樹を表しきれていないというこだ。
作品単体とすれば僕は「ノルウェイの森」を知らない人にオススメしたいんだけれども、ノルウェイの森を読んでからまた同じような感動を味わいたいと春樹作品を求める人がいる場合その人にとっては酷な所があるとも思う。
僕の場合はこうだった。
運がいいことにノルウェイの森にどっぷりはまっている時にバイト先の先輩も村上春樹を読んでいて「なら世界の終わりとハードボイルドワンダーランドがオススメだよ」と教えてもらった。
すぐに本屋さんで上下巻を購入し読み始めるがショックを受ける。
最初のシーンでは主人公は記憶を失っていて何やら箱の中に閉じ込められていて、動いている感覚があるからおそらくエレベーターの中だと推測する。動きが止まり扉が開くと目の前には見たことのない太った女がいた、みたいな感じだった。
なにこれ!?全然面白くない。期待していたのと違う。
主人公の名前は誰で職業は何をしていて、女は誰なのかとか知りたい前提情報が全く書かれていない(ちゃんと読み進めれば書いてあった)
そんなことで僕はあまりのつまらなさにそれ以降ページをめくるのを辞めた。
この物語は「世界の終わり」と「ハードボイルドワンダーランド」という二つの話が交互に載っていて、後の大ヒット作「海辺のカフカ」と同じ構図をしていることが分かる。
僕がつまらないと感じた冒頭のシーンは「ハードボイルドワンダーランド」の方なんだけれど「世界の終わり」の方も冒頭はかなり退屈だ。
同じように主人公は記憶を無くしていて気づくと見知らぬ街にいた、その街には獣が住んでいて最初は獣の描写が淡々と続く。
この獣と書かれているものは単に何かの比喩なのか実際に存在する動物なのかが詳細には書かれておらず一貫して獣と表現されている。
「世界の終わりとハードボイルドワンダーランド」は最初は結構難解で読み進めるのに根気と忍耐がいると思う。
そのページそのページで書かれている表現や描写は美しくて読み応えがあるのだけれど、この先も長いページが待っていると思うと物語としてどう展開されていって、何が言いたいのかとか考えちゃうとどうしても冒頭は難しい。
僕は小説を読む時よく面白くなってくると、物語にリズムが出てくるって表現するのだけれど、この物語はそのリズムが出てくるまでに結構ページ数がかかる(あくまで個人の見解)。
そしてリズムに乗れれば後は最後のページまでノンストップでめくってしまうほどの面白さを秘めている作品だった。
二つの作品が平行して進んでいくんだけれど、上巻を読み終わる頃は断然「ハードボイルドワンダーランド」が面白いと感じていたんだけれど読み終わった今は「世界の終わり」の方を読み返したいと感じている。
僕は全部の村上春樹の作品を読んでいるわけではないんだけどもエッセイや短編集を含めてまあまあ読んでいると自負していて、他の作品と比べてみるとこの物語はラストに結構密度が濃い展開になっていったと思う。
二つの話が載っている分ラストスパートも二倍の密度に感じたのかも知れない。
読んで思うのはやっぱり村上春樹は裏切らないなあということだ。
言葉にして表してしまえば安っぽくなるし薄まってしまうけど、やっぱり面白いよ。
また少しづつ読んでいない作品を読んでいきたいと思う。